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宇都宮地方裁判所 昭和63年(わ)57号 判決 1988年6月10日

本店所在地

栃木県下都賀郡壬生町大字壬生丁二〇五番地二

有限会社志乃原平安閣

(右代表者代表取締役 篠原政芳)

本籍並びに住居

栃木県下都賀郡壬生町大字壬生丁二〇五番地二

会社役員

藤原政芳

昭和二七年九月七日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官立澤正人出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告会社有限会社志乃原平安閣を罰金二五〇〇万円に、被告人藤原政芳を懲役一年六月に処する。

この裁判確定の日から被告人篠原政芳に対し三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告会社有限会社志乃原平安閣は、栃木県下都賀郡壬生町大字壬生丁二〇五番地二に本店を置く、飲食業等を目的とする資本金一〇〇万円の法人であり、被告人篠原政芳は、右被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人篠原政芳は同被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上げの一部を除外するなどの方法により所得を秘匿したうえ、

第一  昭和五八年九月一日から昭和五九年八月三一日までの事業年度における右被告会社の実際所得金額が四八六二万二七八六円であったのにもかかわらず、昭和五九年一〇月三一日、同県栃木市本町一七番七号所在の栃木税務署において、同税務署長に対し、所得金額は零(欠損金額一三六二万七六七七円)で、これに対する法人税額は零である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により右被告会社の前記事業年度における正規の法人税額二〇六万九三〇〇円を免れた、

第二  昭和五九年九月一日から昭和六〇年八月三一日までの事業年度における右被告会社の実際所得金額が七一九一万二〇二六円であったのにもかかわらず、昭和六〇年一〇月三一日、前記栃木税務署において、同税務署長に対し、所得金額は零(欠損金額六三六万一六三七円)で、これに対する法人税額は零である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により右被告会社の前記事業年度における正規の法人税額三〇一五万三八〇〇円を免れた、

第三  昭和六〇年九月一日から昭和六一年八月三一日までの事業年度における右被告会社の実際所得金額が一億二三〇五万五四五円であったのにもかかわらず、昭和六一年一〇月三一日、前記栃木税務署において、同税務署長に対し、所得金額は零で、これに対する法人税額は零である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって不正の行為により右被告会社の前記事業年度における正規の法人税額五二二九万六六〇〇円を免れたものである。

(証拠の標目)

判示全事実につき

一、被告人篠原政芳(以下、被告人と略称する。)の

1、当公判廷における供述

2、検察官に対する供述調書三通

一、収税官吏の被告人に対する質問てん末書九通

一、篠原喜美子の検察官に対する供述調書

一、収税官吏の篠原喜美子(二通)、篠原キク、石川浩三、鯉沼義郎、萩野谷敏雄(二通)、田名網公(二通)及び遊佐清一に対する各質問てん末書

一、被告人作成の答申書一〇通

一、篠原正平、石川徹(二通)、宇賀神宏(二通)、鳥居省二(二通)、鈴木辰雄及び隅内幸一(三通)作成の各答申書

一、被告人作成の昭和六二年四月一一日付提出書四通

一、収税官吏作成の総売上高、当期総仕入、雑給、接待交際費、雑収入、受取利息、償還益、事業税認定損、欠損金、繰越欠損金控除額、現金、預金、有価証券、未収入金、保険掛金、前渡金、土地、未払金、代表者勘定及び未納事業税に関する各調査書

一、右同作成の査察官報告書三通

一、右同作成の足利銀行壬生支店、同銀行おもちゃのまち支店、栃木信用金庫都賀店、水戸証券小山支店、宇都宮信用金庫壬生支店及び栃木相互銀行おもちゃのまち支店に関する各調査関係書類

一、収税官吏作成の現金・預金・有価証券、印章等、自動車検査証在庫及び預金に関する確認書七通

一、栃木税務署長作成の同年四月九日付証明書

一、登記官作成の商業登記簿謄本

一、押収してある大学ノート一冊(昭和六三年押第三二号の一)

判示第一の事実につき

一、収税官吏作成の脱税額計算書(証第155号とあるもの。)

判示第二の事実につき

一、右同作成の同計算書(証第156号とあるもの。)

判示第三の事実につき

一、右同作成の同計算書(証第157号とあるもの。)

(法令の適用)

被告人らの判示各所為はいずれも法人税法一五九条一項(被告会社については更にいずれも同法一六四条一項)に該当するが、被告会社の判示各所為についてはいずれも情状により同法一五九条二項を適用し、被告人篠原政芳については各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、被告会社については同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で罰金二五〇〇万円に、被告人篠原政芳については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で懲役一年六月に処し、被告人篠原政芳に対し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右の刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、結婚式場を経営する被告会社の業務に関し、被告人篠原政芳が、同業者との競争に負けないため営業資金の蓄積を図るなどの動機から売上げの一部を除外したり、架空経費を計上するなどの方法により三期分で総額一億二五一万九七〇〇円もの法人税を免れた事犯で、その動機に酌むべき事情も極めて乏しく、ほ脱総額が一億円を突破していること、三年間にわたり犯行を反覆しており、しかもほ脱額も次第に高額になっていること、三期ともいずれもほ脱率が一〇〇パーセントと高いことなどを考慮すると犯情極めて悪質で、国民の租税負担の公平の保持の見地から被告人らの刑事責任は重いと言わざるを得ない。しかし、他方、被告人篠原政芳は、捜査及び公判段階を通じ被告会社代表者としての自己の非を素直に認めると共に、現在までに修正申告に応じ本税をはじめ重加算税などをすべて納付して反省の態度を示していること、同被告人にはこれまで前科、前歴とも全くないこと、本件を機会に会社の経理事務の改善を図り、二度と同種事犯を惹起しないことを誓っていること、本件が世間に露見したことによりそれなりの社会的制裁を受けていること、前記の重加算税を課せられたことをはじめ、本件で公判請求され懲役刑のほか、多額の罰金刑に処せられることにより脱税が決して割に合わないことを実感したであろうことなど被告人らのために酌むべき情状もあるので、そこで、以上の情状を総合考慮して主文のとおり量刑したものである。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 榊五十雄)

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